09. そして世界を見失った(孤独十題)

今までの世界が、音を立てて崩れていく。




それを、私は望んだのだろうか…。

「…阿部」


背中に、呼びかける。

返答はない。



「…この前の、本気…」
「あぁ」
「…そっか…うん。そうか…」




練習の合間、ベンチの中

グランドではみんなが互いに声を掛け合って、練習に取り組んでいる。


阿部はキャッチャーの防具とかの手入れをしていた。




「…馬鹿だな、あんたも」
「お前ほどじゃない」
「それもそうか…」




『好き』だなんて、知らない。

そんな感情は、知らなくてもいい。



邪魔なだけじゃないか？




「…阿部、悪いけど…私」
「言うなよ」
「は？」
「やっぱ、それ以上、言うな。わかってっから」




今日、初めて阿部がこっちをみた。


あの時みたいな、無感情の眼差しじゃなく


…なんだろうな、上手くいえないけど





「…阿部、私は」
「田島がさ」
「？」
「昨日、田島に聞いたんだ」
「なんて？」
「『柚菜の事、好きか』って」
「はぁ！？」




思わず大声で叫んでしまい、みんなの視線がこっちに注目した。



頭を振って、なんでもない、と伝える。




「…な、に聞いてんのさ！」
「お前、どうせ田島しか、見てないんだろ。最初から」
「何が…」
「…田島に聞いたら、さ。なんていったと思う？」
「さぁ」






阿部が、小さく笑いながら
言った。












































「…『俺は、柚菜しか、見てないよ』だって」




































グランドの砂を舞い上げるような、風が吹いた。



























(何もない感情が、色をつけて。今までの世界が変わる。)