06. 殻にヒビ

取り繕えない、殻にヒビ。





君は、残酷なほど私を追い詰める。

「……」
「……」




部室は時間交代に、他のメンバーと私で使っている。


…沈黙。


ぴんと張り詰めた空気。



部室内には、既に着替え終えて、ケータイを弄っている私と
野球の雑誌に視線をめぐらせている阿部しかいない。




「…阿部」
「なんだよ」
｢早く帰れば」
「そっちこそ」



誰かを待っているわけではない。

何かを待っているわけではない。




…ただ、そこに居座っている。



やることなんてないのだ。

ケータイなんか、気晴らしにしかすぎない。





この間のことは、まぁ…時効というか、解決はした。
阿部とも、普通に話している。




なら、この沈黙は何だ？




「…阿部、やっぱ、なんかあんの？」
「何がだよ」
「変だ。最近…というかずっと」
「……」








雑誌を床に置く。

乱暴に。






「…アホ」
「は？喧嘩うってんの…」
「何でそんな、考えなしなんだよ」




―――――――――ガッシャンッ







「…っ」




ロッカーが盛大な音を立てる。

一瞬身を硬くしたが、そのこと事態に驚くことはなかった。




「何してんだ…阿部、どけ」
「どかねーよ」




顔の横に手をつかれて
そこから動けない。








まるで逃げられないとでも言うように。

























「…邪魔、いい加減にしろ」
「柚菜、お前…さ」
「何？いい加減にしないと、流石に怒るぞ…」







威嚇の視線を向ける。


睨みつけているのに、阿部は退く様子もない。







真っ直ぐな瞳は、何の感情もうつさず
ただ、何かを伝えるためだけに、色を秘めていた。




















「……阿部…？」
「…………」














ここで、逃げていれば。



ここで、阿部が言わんとしていることに気付いていれば。





































殻に、ヒビ。





























「好きだ」





































取り繕えない、戻れない。












それは、憎しみにも似た感情。














(欠片拾い集め、並べてみるも。取り繕えない殻にヒビ。)