04. 捻じ曲げられた鍵(孤独十題)

嘘かほんとか、わからないほど馬鹿じゃない。

逃げ出した。


彼女は、昨日、逃げ出した。



「なー阿部。昨日なんで柚菜帰ったんだ？」
「…さぁ」



流石に、言い過ぎたかなと、思った


でも、罪悪感はない。



気持ちは、はっきりしているくせに。


気づいていないが腹立たしい。






「…田島」
「んぉ？」
「お前、さ」
「何々？？」




お前、柚菜のこと…







「や、なんでもねぇ」
「なんだよいえよ～！！きになるだろっ」
「一生気にしてろ」






俺はそこまで優しくない。


簡単に、諦めてやれるほど

優しくないから。






田島に対して、素直に嫉妬だってするし、
彼女に対して、好きなんだとも思う。





「………」








今日、一度も顔を見ていない彼女を想う。



あぁ、怒っているだろうな。








「…どっちでも」








昨日、否定しなかったことに



昨日、返答がなかったことに








イライラする。







答えを出さなかった。




出さずに、彼女は逃げた。








手を捕まえて、問い詰めて


…届かぬ思いを吐き出して






俺の中の傷として残ってくれたほうが、ずっとマシだったのに。










「…柚菜」











手の届く距離にいる。



思いの届かぬ場所にある。











(気付きたくない、自分の感情。扉の鍵は、捻じ曲がったまま。)