君を、大切にしたいと思った。

もう、そんな涙は流させないから。



だから、俺を選んで…？

君は泣いていた。



うずくまって、声を押し殺して。



様子が変なのは、ずっと気づいていたことだ。



この前の、武蔵野第一の練習を見に行った、あの日から。






「…浅木…ちゃん？」
「えっ、あ、泉君…！」
「……泣いてたの？」





すっくと立ち上がり、無理に笑おうとする。


そんなに、俺の傍じゃ泣けない？


泣き辛い？




どうせ、彼のことで泣いてたんでしょう。





「…なんで、笑おうとするの？」
「だって…、泣き顔なんて…見られたく、ないし…」




そんなこと、気にしないよ。




言葉が、ここまできて、出なかった。






俺になにが出来るというんだろう。


生半可な励ましなんて
逆に彼女を傷つけるだけだ。





『榛名…さんのとこ、行っておいでよ』
『本当はまだ、好きなんでしょ？』
『きっと、まだ二人は両思いだよ』






そんな言葉、言えるはずもない。



彼女が泣くのなんて、見たくない。

でも、最善の道を彼女に教えることもしたくない。




矛盾している。


そんなこと、重々承知だ。







「…浅木ちゃん」
「……何？」






涙に濡れた頬に、そっと手を添える









「…俺だったら、絶対に浅きちゃんを泣かせたり、しないから。悲しませたり、しないから」











お願いだから、そんなに苦痛に耐えるような涙を流さないで。






傍にいることしか、できないけど。













end
(泣けますか、泣きますか。)





お題提供：みずちとさいせい