03. 違うって叫んでやれたら良かったね

もう、手遅れかもしれません…。

「だから、違うっていってるだろ！？」
「嘘付け」






さっきから、この言い合いは延々と繰り返されている。


もう、いい加減にしてくれ。



「阿部。言っておくけど、私はただ野球がしたいだけだ。ＯＫ？」
「嘘だな。それだけじゃないくせに」
「何が言いたい」
「別に」




最近、阿部がおかしい。


というか…変だ。





「…何か、怒ってる？」
「怒ってねーよ」





明らかに、怒っている。

視線がかみ合わないから。





「さっさと、練習いけよ。今日はお前のバッティング練習からだろ」
「気分が悪いだろ。意味もわからなく、勝手にいらつかれてたら」
「……お前が言えた義理かよ」
「何言って…」





阿部、どうした。



最近の阿部がおかしいことは、きっとみんながきづいている。

三橋でさえ、びくびくしながら遠目でこっちを見ているほどだ。





「…なんで、西浦にはいったんだよ」
「だーかーら！何回言ったらわかんだよっ！野球が…」
「『田島がいるから』」
「…っ」





何を言って…




「田島がいるから、だろ」
「ちが……」




ちがわない。



その通りだ。





私は、田島を…







田島、を………なんだ？











「柚菜～っ、早く練習こいってモモカンが…」






田島の声が近づいてくる。




ちょっと待って。



今、行くから。






ちょっとだけ…











「…お前、田島のこと、どう思ってんだよ」

























一瞬、その場の空気が凍った。











「何？俺の話？？」
「たっ……！？」






違うって言え。



何でもないって。





ただの、チームメイトだって。






そのはずだろう。






さっさと、何か言わないと。









「…っ」











……阿部、おぼえてろよ。



一生うらんでやる。







(違うって、叫んでやれたらよかったね。でも、もう手遅れだ。)