02. 思い出せるのは後ろ姿

怖くていえない。




本音と弱音。

「ナイバッチー！」




ツーベースヒット。



走者が出る。




「ナイバッチ、南」
「もち」



コーチャーボックスから声がかかる。



ああ、でも。



私の前には、あいつがいる。






「リーリーリ…」




他の部から助っ人を呼んでの簡単な練習試合。
阿部、三橋のバッテリーと、花井、水谷以外はみんな同じチームだ。






塁をける。





「ゴォッ！！」




バッターが大きくバットを投げ出す。



走る。











また、あいつの後ろを。





「柚菜！続け！！いけるぞ」




ホームから、先に点を入れた田島が声をかける。



三塁を蹴って、走る。








キャッチャー…
阿部がホームベースに手をつく。





「…セーフ！！」






よっしゃ




思わず小さくガッツポーズ。



「ナイスラン！」
「…どーも」



左手でのハイタッチ。


今日の練習は、これで終わりだった。






















「田島」
「おー？」
「私、四番になりたい」
「んお、だめだめ！譲らないからな！」
「わかってんよ。そんぐらい」





だから、苦労してんだって。






譲ってほしいなんて、思っていない。




ただ、追いつきたいのだ。







打順とか、そんなんじゃなくて。





あいつに…田島に、追いつきたい。





いつまでも、後ろはいやだから。









「…おいて、いかないでよ」












掠れるような声音で告げた




初めての本音と弱音。









( 思い出せるのは後ろ姿。脳裏をちらついて離れない。)