06* 譲れないよたとえ君にだって(希求７題)

なんとなく、そんな感じがしていた。

「阿部」
「…ん？」


三橋とストレッチしていると、後ろから声をかけられた。

…南　柚菜だ。




女一人で野球部に入部してくるような、ちょっと常識はずれなやつだ。




「あー…おぼえてっかな？私、受験日に阿部にぶつかって…」
「あぁ、あれか。覚えてる」
「あんときはありがとね。うん、こけずにすんだ」
「制服でしりもちつくのは、流石にかっこわりーしな」
「…こけてないって」



ストレッチしながら、そんな会話を交わしていた。



「何々？阿部って柚菜と知り合い？」
「あーまぁ、知り合いっていうか…」
「ぶつかっただけだよ」
「……」
「そなの？阿部ー」
「……そうだよ」



前屈上体で声がくぐもってしまう。

『ぶつかっただけ』



そうだよな。


普通に考えたら、それだけのことだよな。













「ゆ…」
「はい、みんな集合！！」



モモカンの声がグランドに響く。

ストレッチをおえ、みんながベンチの近くまで走っていく。




「阿部、行くよ？」
「…ぶつかっただけ、か」
「何が？あ、ほら、モモカンがこっち見てるって！いそがないと」




しぶしぶ、走ってみんなのもとへ駆け寄る



どうしたんだ？


なんで、こんなにイライラしてる…



「あ、阿部く…」
「あ？あぁ…わり、で、なんだっけ？」
「次、ピッチングの練習、だから」
「そーだな…」








どうかしてるぞ、俺…。
















「…ありえねー」









出会った時から、本当は。







(あいつが名前を呼ぶだけで。)