さよなら。(豪巧)

さよならと、綺麗に終われたらよかったのにね。






意地悪な神の悪戯。

さよなら。



また、明日。



そんな会話、俺達には存在しない。




「巧、明日の試合…」
「あぁ、わかってる」




練習試合を控えた、午前０時



君からの電話。




掛け間違ったのではない。

寝ぼけていたのではない。





「…海音寺さん、か」
「なんだよ、豪」
「や、久しぶりじゃな…と思って」
「…そうだな」




久しぶりだ。



一緒にやった、最後の試合から
もう一年がたとうとしていた。




「高校から、先輩達が集まってくるんだってな」
「引退した先輩たちも、参加するんだろ？」
「ああ」




野々村たちも…



そう、久しぶりに
海音寺たちをはじめとする、ほかのメンバーもそろっての
練習試合だ。




学校の許可はない。



責任者は、オトムライがもってくれるらしい。





「…ほんと、久しぶりじゃ」
「勝てない…とか、思ってないよな」
「もちろん。今の新田東の力が見てもらえるって、わくわくしとる」
「……ふーん」
「…巧？お前、楽しみじゃないんか？」
「そんなわけないだろ」




そうじゃないだろ、豪。


俺じゃなくて




「…きっと、今もお前は、楽しそうな顔なんてしてないだろうなって思って」



















ずっと、ひっかかってとれない蟠り。











「……巧…」
「いいよ。なんでもない」
「たく…」
「じゃ、俺、もう寝るから」






楽しみ…
でも、お前、本当に野球を楽しんでいないだろ。


















「…ばい、豪」










受話器を置く。




豪がなにか言っていたけど、

聞くのが怖くて、そのままきった。
















「…まだ、動けないでいるのか」















なぁ、豪。














end
(さよならより残酷に、幸福は俺達を裏切った。)