年上の彼

貴方は、私の初めてで出来ています。

「あ、久美也せんぱーい」



時々、隆也の練習を見に(実際そんなに見てはいない)
野球部へと顔を出す。




ピッチャー…
たまに、マウンドから三橋君以外が投げているとこを見たりする。



野球にそこまで詳しくない私でも、思わず言葉を失うほど

綺麗な投球フォーム。





「ナイピー！」
「あ、…阿部の…」
「美琴です。物覚えわりーな」
「…その言葉使い、可笑しいからね。明らかに敬語じゃなくなってるし」
「先輩、コイツの会話に付き合ってたら三橋や田島と話すくらい疲れますよ」
「お前と話しててもつかれんだよ隆也」
「何しにきたんだよお前。しまいにゃ怒るぞ」



いつものような会話のやりとり。


向こうで監督が少し笑ってる。






目的は隆也の練習見学…

だけではない。






一瞬で私の目を惹いた、その球が見たいってのも、大きな理由だ。







「久美也先輩、さっきの、ナイピーですよ」
「…どーも」
「てか、ナイピーってどういう意味ですか」
「知らないで言ってたの！？」
「だって、みんな言ってたから言ったほうがいいのかと」
「あー…『ナイスピッチング』って意味、だよ」




ボールをくるりと手の中で回す


その動作は、とても自然で

そこにあるのが当たり前のように、白球は先輩のグラブにおさまった。





一つ一つの動作が意味をもっているようで、目が離せなくなる。






「…？美琴、ちゃん…」
「あ、や、ちゃんはなくていいですよ」
「じゃ、美琴。どうかした？ボール、珍しい？」
「…先輩が持ってると、なんか、生きてるみたいだなって思って…」





そう、生きているのだ。



鼓動が聞こえてきそうなほど



その球は、指先を離れる一瞬で、獰猛に疼く。






「…そんな風に表現されたの、初めて」
「私も、そんな風に思ったの初めてですよ」
「そっか、『生きてる』…か」
「はい」
「…………ありがと」






ふわっと笑うその笑顔に

どこか、胸があったかくなった気がした。












end
(恋愛未発達論。)









友人あさぎの小説「年下の彼女」とリンクしてる感じで。