離れる。(豪巧)

いつか、この手が届かなくなるその日まで。

真正面に立って、構えている。
それはごくあたりまえの光景となった。


声が届くし、この手だって簡単に届く。




いつまでも変わらないはずのこの光景が


俺の知らないところからぼろぼろに崩れていってしまうなんて。


あいつが、届かなくなって

離れていってしまうなんて。





そんなことを考えてしまう自分が腹立たしい。

馬鹿みたいだ。






「…豪、どうしたよ」
「…なんでもない。次、外角の高めな」
「ん」




なんでもない

なんてことはない。




実際、そう考えて

そう考えてしまう自分に戸惑っている俺がいる。













離れたいと願ったこともあったというのに。






離れたくないなんて矛盾してる。

















同じ場所にいて

同じものを見ている俺たちは







遠くないミライ。









違う場所に立って



違うものをみている。

















「……それでも、いいじゃないか」
















いまは、このミットの熱さと

あいつの球を信じよう。

見ていよう。











離れていく、その日まで。











end
(今はこんなに近くにいるのだから。)






＊＊＊＊

久々に豪巧。相変わらず大好きだー。